Stay Review · 実泊レビュー

南紀白浜 ホテル川久
— 総工費400億円「夢の城」に泊まる

ホテル川久 外観(朝、青空と瑠璃瓦の屋根)

和歌山県南紀白浜の海沿いに、ヨーロッパの古城のような姿でそびえる建物があります。バブル経済の絶頂期、1989年から約2年の歳月と総工費400億円をかけて建てられたホテル川久。紫禁城の瑠璃瓦、ギネス世界記録の金箔天井、世界各国から招かれた職人たちの手仕事。「100年200年先まで歴史に残る建築作品を」という創業者の夢が結晶化した、現代日本に残された唯一無二の「美術館ホテル」です。

このページでは、実際に宿泊した際に撮影した写真と、館の歴史・建築・客室・温泉・食事に関する詳細な調査情報を組み合わせ、予約を検討中の方が滞在のイメージを膨らませられるよう、徹底的にレポートします。

01「夢の城」が生まれるまで:400億円の建築物語

ホテル川久の起源は、大正末期から昭和初期にかけて大阪・船場の商人・川内屋久兵衛が南紀白浜に創業した老舗旅館「河久(かわちや)」に遡ります。戦中の軍接収、戦後の南海地震による津波被害という壊滅的打撃を経て、1949年に再建。1971年の黒潮国体では昭和天皇の宿泊所に指定されるまで、南紀白浜を代表する高級和風旅館として歩んできた歴史を持ちます。

転機は1989年。建物の老朽化に直面した経営陣は、「100年、200年先まで歴史に残る、世界に類を見ない唯一無二の建築作品を創り上げる」という大胆な構想のもと、総改築プロジェクト「世界の数寄屋」を始動させました。設計を手掛けたのは、独自の存在感を放つ建築家・永田祐三氏。当時急速に進んでいた「コンクリートブロックによる画一的な高層建築」へのアンチテーゼとして、世界各国の城郭と宮殿の様式を融合させた「時空を超える夢の城」を目指したのです。

項目詳細
所在地和歌山県西牟婁郡白浜町3745
設計者永田祐三(永田・北野建築研究所)
施工期間1989年始動 〜 1991年11月20日竣工(約2年間)
総工費約400億円(当初予算180〜200億円から大幅超過)
建築規模地上9階建て、高さ約49m、延床面積26,000㎡
受賞歴1993年 第6回村野藤吾賞
現運営Karakami HOTELS & RESORTS株式会社(1999年買収)

1991年11月、会員権2,000万円を掲げる超高級会員制ホテルとしてグランドオープン。しかしバブル崩壊の波に直撃され、わずか4年後の1995年に約403億円の負債を抱えて経営破綻します。その後、北海道地盤のカラカミ観光(現Karakami HOTELS & RESORTS)が1999年に買収し、選ばれた富裕層だけの秘境だった「夢の城」を、一般客でも泊まれるラグジュアリーホテルへと転換しました。2020年7月には館内全体が私設美術館「川久ミュージアム」として公開され、文化遺産としての動態保存も始まっています。

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「バブルの遺物」ではない理由
ホテル川久は単に「バブルが残した豪華建築」ではありません。世界各国から本物の素材と本物の職人を呼び集めて作られた、再現不可能な工芸の結晶です。効率と規格化を至上命令とする現代の建築業界では、同じものを建てようとしても二度と作れない。だからこそ、宿泊体験そのものが「動く文化遺産に泊まる」という稀有な行為になります。

02ロビーに足を踏み入れた瞬間:蒼い列柱と金箔の天井

自動扉が開いて最初に視界に飛び込んでくるのが、この光景です。

ホテル川久 ロビー:蒼いシュトックマルモの列柱とローマンモザイクタイルの床

ロビーを見下ろす2階ギャラリーから。蒼い列柱、グランドピアノ、足元の幾何学モザイク

ギネス世界記録の金箔ドーム天井

頭上に広がる黄金のドーム天井は、フランス・パリのアンヴァリッド(廃兵院)のドーム屋根の金箔補修を手掛けた名門「ロベール・ゴアール工房」から職人を招聘して施工。5cm四方のドイツ製22.5金金箔約19万枚を、約1,500時間(2ヶ月弱)かけて1枚ずつ手作業で貼り付けたものです。2020年8月25日には「最大の連続して金箔押しされた天井(1,056.97㎡)」としてギネス世界記録に正式認定されました。

蒼い列柱「シュトックマルモ」

黄金の天井を支えるのが、直径1.6m・高さ7.4mの蒼い列柱24本。これは日本を代表する伝説の左官職人・久住章氏がドイツで習得した「シュトックマルモ(Stockmarmo)」というヨーロッパの伝統石膏マーブル技法で仕上げられています。大理石が採れないドイツ・オーストリアで発達した、継ぎ目のない大理石風の質感を表現する高度な左官技術。蒼い円形の列柱としてこれほど大規模に施工された例は世界でも他にありません。手で触れると大理石の冷たさとは異なる、石膏ならではのじんわりとした温かみが伝わってきます。

ローマンモザイクタイルの床

1,500㎡におよぶロビー床面は、イタリアのフリウリ地方から招かれたモザイク職人集団が、約1cm角のローマンモザイクタイルを1枚ずつ手作業で埋め込んだ幾何学模様の床。敷設完了後に全面研磨されているため、タイルと目地に段差が一切なく、触れると鏡面のようにつるつる。歩いていて気づくのですが、模様が場所ごとに違うので、ロビーを一周するだけでも飽きません。

外装の主役、紫禁城の瑠璃瓦

外観の黄金色に輝く広大な屋根には、中国・北京の紫禁城(故宮博物院)の修復用瓦を焼き続けてきた名窯「瑠璃青磚廠(るりせいせんしょう)」に特注した瑠璃瓦が47万枚(屋根伏せ面積2,200坪)も使用されています。瓦の色は中国では皇帝以外に使用が許されなかった最高高貴な色「老中黄(ろうちゅうき)」。瑠璃青磚廠が国外向けの建造物に、しかも皇帝専用色の瓦を焼いたのは、その長い歴史において初の出来事だったそうです。

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2階ギャラリーは美術館モードで歩く
ロビーから螺旋階段で上がると、シャガール、ダリ、横山大観、平山郁夫といった巨匠の絵画が回廊に並んでいます。陶芸家・加藤元男氏の陶板壁画、清時代の骨董コレクションなど、ホテルというよりは美術館。チェックイン前後の時間に、ぜひゆっくり回ってみてください。

03客室レポート:モダンジャパニーズスイートに宿泊

ホテル川久の最大の強みのひとつが、全85室がオーシャンビュースイート仕様であること。穏やかな田辺湾に面しており、いわゆる「山側」の客室は存在しません。さらに「同じデザインの部屋は二つと作らない」というコンセプトに基づき、部屋ごとに家具・調度品・レイアウトがすべて異なります。今回は和洋ハイブリッドのモダンジャパニーズスイートに宿泊しました。

モダンジャパニーズスイートのリビング:畳・ソファ・海への大窓

21畳のタタミリビング。大窓に面してデイベッドが置かれ、田辺湾を眺めながら寛げる設計

まずリビング。21畳という広さに思わず立ち尽くしました。畳敷きの大空間に置かれたソファセット、欄間からこぼれる柔らかな光、そして窓の向こうには海。和の落ち着きと洋のくつろぎが上手く溶け合っていて、館内の他のヨーロッパ色の強い空間とはまた違う居心地のよさがあります。

客室のシャンデリアとツインベッド

シャンデリアの下にツインベッド。天井のドーム照明が部屋の格を一段引き上げる

客室寝室:和の意匠が宿るベッドルーム

ベッドサイドには障子越しの間接照明と和柄のクッション。落ち着いた色調

水回りもクオリティ高い

このホテルで意外だったのが、水回りまで手を抜いていない点です。鏡面張りの広い洗面所、ヘキサゴンの大理石床、ガラス棚に並ぶアメニティ。スイート仕様らしくセパレートバスで、客室で寛ぐ時間の質を引き上げてくれます。

洗面・パウダールーム:鏡面の壁・グラスシェルフ・幾何学模様の大理石床

パウダールーム。ガラス棚・鏡張りの壁・大理石モザイクの床という贅沢な構成

客室カテゴリーの全体像(要確認情報含む)

全85室は「クラブステージ」「サテライトステージ」「スイートルーム」の3つのグレードに分類されています。客室露天風呂が付くのは最高峰のプレジデンシャル スパ・スイート(潮香・天界)のみで、それ以外の客室は天然温泉ではなくセパレートバス仕様です。「客室で温泉に入りたい」という方は予約時に注意が必要です。

ステージ代表的な客室広さ特徴
クラブステージプレジデンシャル スパ・スイート「潮香」「天界」178〜247㎡天然温泉露天風呂付、ブルガリ/モルトンブラウンのアメニティ、インペリアルラウンジ無料
サテライトステージモダンジャパニーズスイート、カワキュウスイート(デイベッド付)80〜90㎡21畳のタタミリビング、海を望むデイベッド、ペット同伴可の部屋も
スイートルームカワキュウスイート、ロイヤルスイート、タワースイート、サザンスイート60〜168㎡スタンダードグレードでも全室スイート。ベッドはシモンズ製ツイン

04日本三古湯の名湯と二大スパサロン

白浜温泉は、有馬温泉・道後温泉と並ぶ日本三古湯のひとつ。飛鳥・奈良朝の時代から「牟婁の温湯」「紀の温湯」の名で文献に登場する歴史ある名湯です。ホテル川久の大浴場は、この温泉を趣の異なる二大スパサロンで男女入れ替え制にて提供しています。

源泉名
垣谷(かきたに)
泉温
64.2℃
泉質
ナトリウム・塩化物・炭酸水素塩泉(無色透明)
適応症
創傷、火傷、皮膚掻痒症、慢性湿疹、神経痛、リウマチ性疾患、運動器障害ほか
利用時間
13:00〜23:30 / 朝 5:00〜10:30(日毎の男女入替制。ご利用日がどちらになるかはホテルへ要確認)

温泉サロン ROYAL SPA(2階・洋風)

「邸宅リビングスパ」をコンセプトに設計された洋風スパ。寝湯、シルキーバス(超微細気泡)、高温ドライサウナ(セルフロウリュ付)、冷水風呂、レインシャワーを完備。暖炉ベンチに床暖房が敷かれ、心臓に負担をかけずに発汗を促す設計です。アメニティは女性用が「マーガレット・ジョセフィン」、男性用が「BULK HOMME」と、無料サービスとしては相当グレードが高めです。

温泉サロン 悠久の森(1階・和風)

高野山の霊木「高野槙(こうやまき)」を浴槽座面に使用した和風スパ。岩造りの露天風呂と組み合わせた構成で、壁面には青山礼三氏による仙人画や陶板、陶淵明の漢詩が描かれており、温泉とアートが同居する独特の空間になっています。

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「ロイヤルスパ・ローマ風呂」について
かつて存在した「ローマ風呂」調の設備は、現在「ロイヤルスパ」「悠久の森」として現代的なスパへ全面改装されています。バブル期の名残そのままを期待して訪れる方は、事前にイメージのアップデートをしておくと安心です。

05王様のビュッフェという晩餐会

ホテル川久が全国的に知られている最大の理由が、メインダイニング「フォルナーチェ(Fornace)」で開催される王様のビュッフェです。「炉」をイメージしたイタリアのアンティーク煉瓦とテラコッタの壁、左官職人によるスタッコ天井が構成する、80席のオーシャンビュー会場。

フォルナーチェ:王様のビュッフェ会場の夜景

フォルナーチェの夜。左手に華やかなディスプレイ、奥にライブキッチン

ライブキッチンと季節のスペシャリテ

「ビュッフェ」と聞いて想像する食べ放題のイメージは、ここでは完全に裏切られます。シェフが目の前で十勝産黒毛和牛を焼き上げる国産牛ロースステーキ、季節ごとに変わるライブパフォーマンス——春は黒潮鰤のしゃぶしゃぶや熊野牛のブルギニョン、夏は紀州梅鶏の焼き鳥や熊野鮑の湯浅バター醤油焼き、秋は松茸土瓶蒸しなど、紀州の最高級食材が惜しげもなく登場します。

パティシエのスイーツコーナーが圧巻

個人的に最も衝撃を受けたのが、ビュッフェ最後のスイーツコーナーです。専属パティシエが目の前で炎を上げるクレープシュゼットトロピカルデザートフランベ、搾りたてのモンブラン——東京のラグジュアリーホテルでもなかなか見ない演出が、ビュッフェ料金の中で楽しめてしまいます。

共用部の宴会場:ドレープカーテンとシャンデリア、フラワーアレンジメント

館内の宴会場・サロンエリア。ドレープ、シャンデリア、巨大な花。すべてが舞台装置

もうひとつの選択肢:イゾラベラ

ビュッフェ以外の選択肢として、創作フレンチコース「イゾラベラ(Isola Bella)」が用意されています。落ち着いた宮殿のような空間で、ワインペアリングとともに9種の創作フレンチフルコースを嗜む、大人向けのコースレストラン。2泊以上する場合、1泊目はビュッフェの華やかさを、2泊目は静かに料理と向き合う体験を、と使い分けるのもおすすめです。

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朝食もビュッフェスタイル
夕食でフレンチ/和食会席を選択した場合でも、朝食は共通してフォルナーチェの王様のビュッフェ会場で提供されます。新鮮な地元野菜のサラダバー、焼き立てパン、目の前で仕上げる卵料理など、朝も力が入っています。

ホテル川久の空室・料金を確認する

06予約・アクセスの実用情報

意外と泊まりやすい価格帯

「総工費400億円の宮殿」と聞くと一泊いくらするのかと身構えますが、バブル崩壊後の一般開放によって現在は驚くほどリーズナブルな価格で泊まれます。平日であれば2名1室利用時で1名あたり23,000〜30,000円前後(夕朝食付き、王様のビュッフェプラン)からが基本的な目安。GW・夏季・年末年始のハイシーズンは45,000〜55,000円前後まで上がりますが、それでもこの建築物のスペック感を考えれば破格です。

予約サイト別の傾向

サイト傾向
じゃらんnetアドベンチャーワールド入園券付き、早期予約割引など特典プランが充実
一休.comプレジデンシャル・スパ・スイート+ワイン飲み放題など富裕層向けプランを大々的に展開
楽天トラベルモダンジャパニーズスイートを含む詳細ガイド連動プラン。初宿泊組におすすめ

アクセスと送迎

出発地所要時間送迎
JR白浜駅車で約10分無料シャトルバス運行(白浜駅発:13:55, 14:50, 15:55, 16:55, 17:50 / ホテル発:9:55, 10:45)
南紀白浜空港車で約15分シャトルバスなし(タクシー利用)。羽田からのフライトは約1時間
自家用車無料平面駐車場80台、EV充電スタンド2台(有料、先着順)

アドベンチャーワールドとの組み合わせ

白浜観光の代名詞「アドベンチャーワールド」へは車で約10〜15分。フロントカウンターで入園券を直接購入できる(大人5,100円ほか)ので、ファミリーで来訪する場合は前夜にチケットを買って当日朝にスムーズに向かう、というルートが定番です。

📝ひとこと

まさに異空間でした。豪華なロビーに存在感ありまくりの太い柱。全室スイートに恥じない広々とした客室。贅沢なビュッフェ。お風呂もゴージャスな造りでした!

それでいて、割とコスパが良いので最高です。一度は泊まってみてほしいです!