Special Feature

ホテルの
ドライヤー図鑑

ホテル洗面台の壁付けホルダーに収まったドライヤーと、鏡に映る客室

シャワーを浴びて、さあ髪を乾かそう——というところで「あれ、全然乾かない」。ホテルのドライヤーにがっかりした経験、髪が長い人なら一度や二度ではないはずです。20分かけてもまだ生乾き、翌朝は寝ぐせがひどい、なんてことも。

でもこれ、ホテルがケチをしているわけでも、たまたま古い機種に当たったわけでもありません。ちゃんとした構造的な理由があります。そしてここ数年、その常識が猛烈な勢いで崩れつつあるのも事実です。この記事では、ドライヤーの善し悪しを分ける「風量」という物差しを手に入れたうえで、ビジネスホテルで最も高い確率で出会う定番機の正体、壁掛け型が弱い理由、そしてチェーンごとにまったく違う「ドライヤー哲学」を見ていきます。あわせて、東京のホテル2,066軒を調べた当サイトの独自データで、実際のブランド勢力図も検証しました。

01「弱い」の正体は風量——まずこの物差しを持つ

ドライヤーの乾く速さを決める一番の要素は、熱ではなく風量です。単位は「m³/min(立方メートル毎分)」。1分間にどれだけの空気を送り出せるかを表す数字で、これが大きいほど水分を物理的に吹き飛ばせるため、髪が早く乾きます。

逆に言うと、風量が足りないドライヤーは熱で水分を蒸発させるしかありません。だから時間がかかるうえに、髪も傷みやすい。「ホテルのドライヤーで乾かすと、なんかパサつく」という体感は、気のせいではないんです。

〜1.2 m³/min
壁掛け型に多い帯域。毛量が多い人・ロングヘアだと、乾かすのに20分以上かかることも
1.3〜1.5 m³/min
従来型ビジネスホテルの標準帯。悪くはないが、熱に頼った乾かし方になりがち
1.6〜1.9 m³/min
高機能機の入口。パナソニックのナノケアなどがこの帯域。風と熱のバランスが良い
2.0 m³/min〜
大風量機。熱ではなく高速の風で水分を吹き飛ばすので、乾燥時間が劇的に短い

主な機種の風量を並べてみる

数字で並べると、体感の差がどこから来ているのかがはっきりします。いずれもメーカー公表値です。

機種風量(m³/min)消費電力よく置かれるホテル
パナソニック 壁掛け型(EH5758P)1.0800Wユニットバスの壁面。低価格帯・築年数の古いホテル
パナソニック イオニティ EH-NE181.31200Wビジネスホテルの標準客室(最頻出)
パナソニック ナノケア EH-NA0J1.61200W上位客室・レディースフロア
SALONIA スピーディーイオン(SL-013)2.31200W新しめのライフスタイル系ホテル
ダイソン Supersonic2.41200Wラグジュアリーホテル・上位ブランド
ReFa ビューテックドライヤー公式非公表1150W全室導入するチェーンが急増中
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ReFaの「風量が非公表」は手抜きではありません
ReFaは風量の数値を公表せず、ノズルを絞った風速・風圧と、髪と周囲の温度を検知して温冷風を自動で切り替えるセンシング機能で勝負する設計です。同じくサロン向けのNobby(テスコム)も風量非公表で、こちらは風速重視。「風量の数字が無い=弱い」ではないので、単純比較はできない点だけ覚えておいてください。

02ビジホ最頻出の定番機「イオニティ EH-NE18」の正体

ビジネスホテルのデスクの引き出しを開けると、不織布の袋に入って収まっている黒か白のドライヤー。あれの正体はかなりの確率で、パナソニックのイオニティ EH-NE18(およびその兄弟機・後継機)です。

当サイトが東京のホテルを調べた中でも、型番まで特定できたものではEH-NE18が最多の13軒で確認できました。「見たことがある気がする」ではなく、実際にいちばん多く出会う機種です。

風量
1.3 m³/min(TURBO時)。標準的だが、大風量機の半分強
消費電力・温度
1200W/温風温度は約110℃
重さ・サイズ
約405g。折りたたむと奥行7.9cmで引き出しに収まる
価格帯
実勢3,000〜4,000円台。数百室に入れても負担が小さい

なぜホテルはこの機種を選び続けるのか

理由は驚くほど合理的です。第一に安いこと。1台数千円なら、数百室への一括導入も、壊れたときの交換も痛くありません。第二に小さいこと。折りたたんで奥行8cm弱なので、狭いデスクの引き出しや備え付けの袋にすっぽり収まります。客室に置き場所を作らなくていいのは、設計上かなり大きい利点です。

そして第三に壊れにくいこと。不特定多数が使い、清掃スタッフが毎日コードを巻き、ときには落とす——という過酷な環境で、構造が単純な機種は圧倒的に有利です。電子制御の塊のような高級機は、この使われ方に耐えるのが難しい。

つまりEH-NE18は「安物」ではなく、ホテルという用途に対して最適化された答えなんです。ただしその代償として、風量1.3という数字が「乾かない」という長年の悪評を生む母体にもなってきました。短髪の人には十分でも、毛量の多い人には物足りない。この一点に尽きます。

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ちなみにEH-NE18は、すでに生産終了しています
メーカーの製品ページでは生産終了品として扱われています。それでも当サイトの調査で型番最多という状況は、ホテルの備品が一度入れたら長く使われることの何よりの証拠。あなたが今夜出会うドライヤーは、もう新品では売られていない一台かもしれません。

03壁掛け型が弱いのは手抜きではなく「設計」

ホテルのドライヤー体験のなかで、最も評判が悪いのが洗面所やユニットバスの壁に固定されたタイプでしょう。あの、コードがくるくるのカールコードになっていて、引っ張ると壁に戻されるやつです。

パナソニックがホテル個室用として出している壁面固定タイプ(EH5758Pなど)のスペックを見ると、弱さの理由がはっきりします。消費電力800W、風量1.0 m³/min、運転音55dB。据え置き型の1200W・1.3と比べて、明確に絞られています。

①水回りの安全基準
浴室内に付けるため漏電対策が必須。湿気の中での加熱事故を避けるため、出力を800W前後に制限している
②隣室への騒音対策
深夜・早朝の使用音が壁越しに響かないよう、ファン回転数を抑えた静音設計。これが風圧不足に直結する
③カールコードの張力
盗難防止とコードの垂れ下がり防止が目的。ただし常に壁側へ引き戻されるので、好きな角度で風を当てられない
結果として
「風が弱い」に「体勢が自由にならない」が重なり、体感の乾きにくさがさらに増幅される

要するに、壁掛け型の弱さは安全性・静音性・盗難防止と引き換えに受け入れられたトレードオフです。ホテル側の怠慢ではありません。とはいえ、髪を乾かす側からすると厳しいのは事実。壁掛け型かどうかは、宿泊の快適さを地味に大きく左右します

全室ReFaドライヤーのホテルに泊まってみる

東急ステイ青山プレミア(楽天トラベル)

04東京2,066軒のブランド勢力図(独自調査)

ここからは当サイトの調査データです。東京のホテル2,066軒のうち、客室ドライヤーのブランドを特定できたのは585軒。その内訳を数えてみました。

ブランド軒数ポジション
パナソニック278軒圧倒的王者。廉価なイオニティから高機能なナノケアまで層が厚い
ReFa101軒高機能枠の筆頭。全室導入するチェーンが増え、急速に拡大中
TESCOM(Nobby含む)56軒業務用の堅牢さで採用。ホテルオリジナル仕様も多い
SALONIA43軒安価なのに大風量。コスパ枠のダークホース
ダイソン32軒最高峰の風量。置いてある時点でホテルの本気度が分かる
コイズミ30軒価格重視の実用枠

同じパナソニックでも中身は二極化している

面白いのはここからです。王者パナソニックの中身を見ると、廉価帯の「イオニティ」系が51軒に対し、高機能帯の「ナノケア/ナノイー」系は27軒。同じメーカーのドライヤーでも、体験はまったく別物ということになります。

「パナソニックのドライヤーだった」という情報だけでは、実は何も分かりません。イオニティなら風量1.3の標準機、ナノケアなら1.6の高機能機。ブランド名ではなく機種まで見ないと本当の当たり外れは判断できない——これが、調べていて一番強く感じたことでした。

05チェーンごとに違う「ドライヤー哲学」

チェーン別に見ていくと、ドライヤーへの向き合い方がくっきり分かれているのが分かります。以下は各社の公式発表と、当サイトの東京調査を突き合わせた結果です。

東急ステイ——全室ReFaという振り切り方

いま最も先鋭的なのが東急ステイです。運営する東急リゾーツ&ステイは2025年6月、全31施設・5,197室の全客室にReFa製品の導入を完了したと発表しました。ドライヤーだけでなくシャワーヘッドまで含めた全面導入です。

当サイトが東京の東急ステイを調べたところ、ドライヤーを確認できた18軒のうち17軒がReFa。公式発表と実データがきれいに一致しました。上位客室だけ、女性フロアだけ、という限定ではなく全室というのが他と決定的に違う点です。連泊や中長期滞在が多いチェーンだけに、滞在中ずっと良いドライヤーが使えるのは効きます。

東横INN——標準は割り切り、プレミアムプラスで全部載せ

対照的に、東横INNは標準客室で徹底的にコストを抑える方針です。そのかわり用意されているのが「プレミアムプラスルーム」。この特別客室には、エアウィーヴのマットレスや加湿空気清浄機とあわせて、ReFaのドライヤー・カールアイロン・シャワーヘッドが入ります。

当サイトの調査でも、東横INN 44軒のうち27軒でこのプレミアムプラスルーム仕様のReFaを確認しています。ただしこれはあくまで特定の客室タイプの話。標準客室を予約して「ReFaがあるはず」と期待すると外すので、そこは注意してください。

アパホテル——投資先はドライヤーではなくエアコン

アパホテルは、客室ドライヤーには過大な投資をしない方針です。当サイトの調査でも、判明51軒のうちTESCOM系が26軒と、堅牢な業務用寄りの構成でした(パナソニックは4軒)。

ではアパが設備に手を抜いているかというと、まったく逆です。同社が全室に入れているのはパナソニックと共同開発した「ナノイーX」搭載エアコン。つまり、美髪ではなく空気の脱臭・清浄に投資を集中させている。「アパにはナノケアのドライヤーがある」と思っている人がときどきいますが、ナノイーなのはエアコンのほうです。この勘違いはけっこう多いので、覚えておくと得します。

スーパーホテル——客室グレードで階層化

スーパーホテルは、客室カテゴリごとに分ける戦略です。女性向けの「レディースルーム」に高機能機を早くから導入し、上位ブランドの「スーパーホテルPremier」では全2,699室にReFaの最新ドライヤー導入を完了と発表しています。当サイトの東京調査でも、判明17軒中ReFaが9軒・SALONIAが5軒と、価格帯のわりに高機能寄りの構成でした。

JR東日本ホテルメッツ——実はダイソンがある

これは当サイトの調査で見つけた、あまり知られていない事実です。ホテルメッツの東京12軒を調べたところ、パナソニックが9軒に対し、ダイソンを3軒で確認しました。ダイソンは全国的にも導入ホテルが限られる最高峰の大風量機です。駅直結の便利さで選ばれがちなチェーンですが、髪を乾かす体験でも当たりを引ける可能性があるというのは、なかなか良い情報だと思います。

ドーミーイン——客室は標準機、勝負は大浴場

ドーミーインは考え方が独特です。当サイトの調査では、確認できた7軒すべてがパナソニックで統一されていました。客室のドライヤーは標準的なところに留めています。

そのかわり同チェーンの主役は天然温泉大浴場。店舗によっては、脱衣所やパウダールームに上位機種を置いているところもあります。お風呂上がりにブローする人が集中する場所へ重点投資するという設計思想は、いかにもドーミーインらしい合理性です。大浴場に行かず部屋で済ませる派の人は、そのぶん客室側は標準的だと思っておくといいでしょう。

三井ガーデンホテルズ——上位ブランドでReFa

三井ガーデンホテルズは、当サイトの東京調査で12軒すべてパナソニックという統一ぶり。そのうえで、アップスケールの「プレミア」シリーズを中心にReFaを2軒で確認しました。ブランド階層に応じてきれいに配分するタイプです。

⚠️
「このチェーンならReFa」と決め打ちしないでください
東横INNのプレミアムプラスルームやスーパーホテルのPremier/レディースルームのように、高機能ドライヤーは特定の客室タイプ・特定の店舗に限定されているケースがほとんどです。全室導入を明言しているのは東急ステイのような例外。予約時はチェーン名ではなく、その客室タイプに付いているかを確認するのが確実です。

06高機能機の二大勢力とダークホース

ReFa——ホテル導入で一気に広がった

高級ドライヤーのホテル導入をここまで押し広げたのは、間違いなくReFa(MTG)です。宿泊施設へのReFa製品導入は2026年3月末時点で累計11万室を突破。当サイトの東京調査でも101軒と、パナソニックに次ぐ2番手につけています。

特徴は風量勝負ではなく、髪と周囲の温度をセンサーで検知して温冷風を自動制御するという考え方。髪の表面が熱くなりすぎないよう抑えながら乾かすので、仕上がりのまとまりが良いというのがウリです。本体が折りたためてコンパクトなのも、客室に置く備品としては効いています。

さらにMTGは2026年7月から、宿泊施設向けの「ReFa COMFORT SERIES」(大容量10Lのシャンプー・トリートメント・ボディウォッシュ)の出荷を開始しました。ドライヤーやシャワーヘッドといった機器だけでなく、浴室の中身までReFaで統一できるようにしたわけです。ホテル側は分かりやすい付加価値を作れて、メーカー側は「泊まって試した人がそのまま買う」導線を得る。うまくできた仕組みだと思います。

ダイソン——数字で殴る最高峰

一方のダイソンは、風量2.4 m³/minという圧倒的なスペックで勝負します。毎分最大11万回転のモーターと、吸い込んだ空気を増幅する独自技術で、熱ではなく高速の風で水分を飛ばす。EH-NE18の1.3と比べるとほぼ倍の風量です。自宅でダイソンを使っている人がホテルで「乾かない」と感じるのは、当然といえば当然でした。

SALONIA——コスパのダークホース

見逃せないのがSALONIAです。実勢5,000円台という価格帯でありながら、風量2.3 m³/minとダイソンに肉薄する大風量を出します。当サイトの調査でも43軒で確認しました。

「高級機を入れる予算はないが、乾かない不満は解消したい」というホテルにとって、これはかなり現実的な解です。実際、泊まる側からしてもReFaやダイソンでなくてもSALONIAなら十分速く乾くので、部屋に置いてあったらちょっと嬉しい一台です。

07予約前チェックリストとまとめ

髪を乾かす時間は、たった10分か20分。でもその10分の体験が、翌朝の髪と気分をけっこう左右します。予約前に見ておきたいポイントをまとめました。

確認することポイント
壁掛け型ではないか壁固定タイプは風量1.0前後・800Wに制限されており、体感で最も乾かない。据え置き型かどうかは大きな分かれ目
ブランドではなく機種は?同じパナソニックでもイオニティ(1.3)とナノケア(1.6)で別物。当サイトは可能な限り型番まで掲載しています
その客室タイプに付くのか高機能機は上位客室・レディースフロア限定が多い。チェーン名で判断しない
大浴場派か、部屋派かドーミーインのように大浴場側に良い機種を置く宿もある。部屋で乾かしたい人は客室側の仕様を確認
髪が長い・毛量が多い風量1.3以下だと20分コース。2.0以上(ダイソン・SALONIA)が置いてある宿を狙う価値は十分ある
買う前に試したい4万円前後のドライヤーは店頭では真価が分からない。ホテルで一晩使う体験はかなり有効な判断材料になります

まとめると、「ホテルのドライヤーは弱い」はかつては正しく、いまは半分しか正しくないという状況です。EH-NE18に代表される風量1.3の標準機がいまも最多派なのは事実。でもその一方で、東急ステイのように全室をReFaで統一する宿や、ダイソンを置くホテルメッツのような例も確実に増えています。ドライヤーはホテルの設備投資の方向性がいちばん分かりやすく出る場所になりました。

なお本記事のスペックはメーカー公表値、チェーンの方針は各社の公式発表を参照し、軒数は当サイトの独自調査(東京2,066軒・2026年9月時点)に基づいています。ドライヤーは客室タイプごとの差と入れ替わりが激しい項目なので、どうしても必要な場合は予約前に該当ホテルへ直接ご確認ください。

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📝ひとこと

調べていて一番「へえ」と思ったのは、いちばん多く見かける定番機EH-NE18が、実はもう生産終了していたこと。今夜どこかの客室で誰かが使っているのに、新品はもう売られていないんですよね。ホテルの備品って、こうやって静かに世代が入れ替わっていくんだなと、なんだか感慨深いものがあります。